海外勤務者は、労災保険法上、「海外出張者」(※1)と「海外派遣者」(※2)に大別されます。日本の労災保険が適用される「海外出張者」に対し「海外派遣者」は、「海外派遣者の特別加入制度」により任意加入をしなければ、属地主義をとる日本の労災保険の適用を受けることができません。海外進出企業の多くが同制度を利用していますが、海外出張と海外派遣では、いざという時の労災認定のされ方に相違があることは、あまり意識されていないようです。
出張中は、一般的な解釈として、出張の過程全般が包括的に事業主の支配下にあるものと考えられています。従って、海外出張中の災害は、出張に当然伴う範囲を超えて私的行為を積極的に行い、恣意的な行為を行った結果による災害である場合を除き、広い範囲で業務災害が認定される事例が多く見られます。例えば、出張中の飲食中の災害や宿泊先ホテルでの強盗殺人、伝染病流行地での急性伝染病罹患、出張による肉体的精神的負担による脳出血の発症等が、業務起因性があるとして労災認定を受けています。
これに対し、海外派遣者の場合、申請した「従事する業務」に起因する災害や通勤途上の災害のみが労災補償の対象となります。伝染病の罹患や暴動・テロ等の災害は、当地に居住している誰もが遭遇する危険があるとされ、業務との有力な因果関係が認められないとされると、労災認定を受けることができない可能性があります。
(※1)国内事業所に所属し、その事業所の指揮命令に従い海外で労務を提供します。(※2)海外事業所に所属し、その事業所の指揮命令に従い労務を提供します。