海外赴任者の処遇を検討する過程において、意識をしておくとよい観点の一つに、当該海外赴任者との労働関係には日本の法律と海外赴任先国の法律のどちらが適用されるのかという準拠法に関する観点があります。
このような国境をまたぐ契約関係の法適用については、「法の適用に関する通則法」がその考え方を示しています。同法によると、「法律行為の当事者の成立および効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」(※1)とされ、この選択がないときは、「当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による」(※2)と原則が定められています。ところが、注意すべきは労働契約については、労働者保護の観点から、上述の当事者における準拠法選択がされている場合においても、労働者が「労働契約に最も密接な関係がある地の法」における特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、その強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する(※3)と特例が定められている点です。この場合、原則として当該労働契約において労務を提供すべき地の法が最密接関係地の法であると推定されます(※4)。
従って、海外赴任者の処遇については、海外赴任先国における労働諸法令の強行法規に違反しないかという観点においても留意することが、労務リスク回避のため必要です。
(※1)法の適用に関する通則法第7条(※2)同法第8条1項(※3)同法第12条1項(※4)同法第12条2項。労務提供地の特定ができない場合は、雇入れ事業所の所在地の法を適用するとの例外規定もあります。