新興国では外国企業からの投資もしくは進出(以下「投資等」とします)の促進政策がとられることがあります。その一つとして、自国の国内法や諸外国と締結する租税条約によって、外国企業の所得に対する租税の減免措置を講じることがあります。投資等をする企業にとっては、投資先となる新興国の租税の減免はインセンティブとなります。
一方、投資等を行う企業の居住地国が日本のように全世界所得課税を行う国である場合、居住地国においては新興国で発生した所得も課税所得とされることから、国際的二重課税が生じます。全世界所得課税を行う国においては、このような国際的二重課税の弊害を調整するために、新興国で納付した税額は居住地国へ納付する税額から控除がなされます(以下「外国税額控除」とします)。そのような場合、何の策も講じられていなければ、新興国が自国の経済発展のために行った租税の減免措置は、進出する企業の居住地国への納税額を増額させる要因となり、新興国への投資等に対するインセンティブ効果がなくなってしまうことになります。
このような弊害を取り除くべく、先進国と新興国との間の租税条約では、新興国が減免措置を行った税額を納付したものとみなして居住地国で外国税額控除を行うといった規定を設けることがあります。このような制度は「みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)」と呼ばれております。例えば、日中租税条約では使用料に対する税率は10%とされていますが、日本においては(中国で)20%で納付したものとみなして外国税額控除の計算をすることができます。